第39回吉備路の会詠草と、私評  三月一日(金) | keiの歌日記

第39回吉備路の会詠草と、私評  三月一日(金)

      第39回吉備路の会作品選評

 1  曙を弓張月のおぼろなり子は競泳に出でゆきしまま

    曙を・・・の”を” が気になります。”の”か”に”だとすんなり解かるのですが・・・。

 

 2  脛長く向きかえ歩む雪原の鶴へ重ねる一人の背

    ”背”は せな と詠むのでしょう。そこはかとない思慕の情が伺えますが、少し飛躍しすぎが情景を曖昧にしているきらいがある様です。

3  草も木も寝しずまりいん午前二時もったいないよな星空仰ぐ

”いん”が気に成ります。口語、文語関係なく"ゐむ”のほうが歌が落ち着くと思います。

4  山間の家々に灯ともりたり我が家も明るく妻の待ちいん

これも"待ちゐむ”のほうがいいと思いますが如何?

5  春を待つこころに成れず夕闇のなか静もれる風の素気無さ

6  謀られて此処に居るかや寒き午後の透析室にひとつ飛ぶ蠅

7  生きていて何の取得も無き日々にパズル組立て 時過ぎてゆく

このなんとも言えぬ無情さ。個人的に嫌いじゃないです。

8  3匹の仔犬やさしく額のなか眸のひかりわれを見つむる

”額のなか”が解かりにくい。しばらく考えて繪か写真かと解かりました。

9  土にかえすものを埋めんと方四尺穴掘り終えて年暮れにけり   (三位)

方四尺の穴はいい表現ですね。ぐんと歌が生きました。佳吟。

10 峠(たお)越せばきららに光る春の海俊徳丸いざ立ちいでな

歌舞伎「合邦」を知らないと理解困難。まだ道中の途中の様子らしい。ただ、下句を変えればどんな歌にでも出来るのが逆に安易すぎる気がします。下句の字足らずが惜しまれます。

11 書を選ぶゆるやかな時幼子のとぎれとぎれに拾い読む声   (一位)

図書館の本棚の前で、ゆっくり好きな本を探している至福の時、どこかで幼児がカタコトで本を読んでいる声がそれとなく聞えてくるのさえ微笑ましい。のどかで暖かい風景が透けてみえる。心休まる歌です。

12 その家内(やぬち)に箱階段もつ友誘えば明治ゆ時代を一気に降り来る

一読意味が通じ難い、が、いまどき見ることすら出来なくなった箱階段のあるような古風な家で生活している友人が、その階段を、まるで明治の世界から一気に現世へ降りて来たように感じた作者の感性がよく解かっていいお歌です。

13 子の髪に白きの混じるも母われの罪にも似しよ染めたる黒は   (二位)

中年に差し掛かった息子(娘?)の髪に白いものが目立ち、それを不器用に染めている・・・。それも親である私の罪なのだと感じる、これも親心。着眼が面白く、いい歌になりました。

14 ハイウエーに工事個所あり口紅をつけたるロボット「進め」としめす

工事中によく見かける風景。ポイントは口紅。若い女の子が、際やかに点けていた口紅が、すこし異様に目立った、まるでロボットのように。

15 空と海の合わせ鏡に光りつつ風が唄えり早春の唄
 

空、海、光り、風、唄、と多くの素点で早春を謳われています。ために却って焦点がぼやけてしまったのがすこし残念。素材を絞って推敲されるといいお歌になると愚考します。