三月三日(金) 氷原三月号掲載歌と題詠100blog 投稿歌006~010
氷原三月号掲載歌 (丹治久恵氏撰)
ひとつの生 (新かな)
*変らざる思い一つを夜の闇に抱き寂やかなりき孤独は
*死の匂い唐突に顕つ冬の夜の厨にひそと虫の走れば
*何たびの冬を重ぬる 今宵また遠き海面に陽を逝かしめて
(海面=うなも)
*ひたひたと足元に寄る水鳥の羽根に共鳴せる朝の凪
*句に耽るままに終夜をひたり居ればその面影の浮かぶ一茶忌
(耽る=ふける)
*肩へずしりともろに乗り冬の風が四国遍路のまだ遠き道
*翻りつつ白衣とう優しさをほろり落して去りぬ婦長は
(翻り=ひるがえり) (婦長=ナース)
*諦観に打ち伏すわれを霜月の風は過去世の空へ連れゆく
今日の歌
題詠100首ブログ投稿歌(2)
006:自転車
*空を飛ぶごとくに乙女疾走す春風に載る朱なる自転車
007:揺
*遠山の霞む春の日ブランコに揺れつつ乙女いま何思ふ
008:親
*すでに亡き親にしあれど朝夕の空に仄見ゆなつかしき顔
009:椅子
*われの身とわが負荷を載せ耐へきれず壊れたり朱の幻の椅子
010:桜
*桜咲く季節(とき)来たりせば動き得ぬ脚をさすりてわが嘆き居り