keiの歌日記 -4ページ目

今日の歌  老い無惨   二月二十五日(土)

                今日の歌

 

         祝!  荒川静香 金メダル 

 

          ●銀盤に咲く花三つ華・麗・美を競ふトリノの夜のはなやぎ

                  老い無惨      

 

       *素はだかの身体を映し物の怪のやうなる鏡 かそか曇りて

              (身体=からだ)(映し=かへし)

 

        *タイル張りそぞろ危ふくなる歩み老いはかなしき現実である

 

        *両側の腓腹筋なぜ言ふことを聞かぬお主もやはり老いしか

 

        *髪洗ふための蹲踞の辛くして仰げば眼にしシャボン入り来る

                 (蹲踞=そんきょ)

 

        *嬰児期は「玉のやうだ」と言はれけむ皺甚だしき老惨の身も

 

”転生の鳥” 米口 實氏作品鑑賞と今日の歌  アキレスの腱  二月二十四日(金)

 

角川短歌二月号に心惹かれる作品があり、心に沁みるまま二読、三読した。

 それは米口 實氏の”転生の鳥”と題する一連の作品のなかの数首である。ここに紹介する


     *配流のおもひ抱きてこの街に赴任せしかの日を思ふ、時すぎにけり

 

     *死の床に人妻恋ふる歌詠みて逝きし友ありき子と妻を置きて

 

     *音もなく来たりてわが手に触れしかばその夜の夢の紡がれてゆく

 

     *川の瀬にさびしき鳥のかへりゆき老いびとは目をひらくおぼろに

 

     *心拍のややとどこほる明け暮れに雲を超えむとおもふはかなさ

作者米口氏について何の知識も持たない私だが、恐らく私と同年代のお人と思う。

ここに提出の五首は、まさにわが七十余年の人生を省みて忸怩たる思いにさせられる一連である。

 若々しい先進の歌はそれで又素晴らしいが、斯様な老成期の佳吟にむしろ強く惹かれるこの頃である。

歌についての評言は割愛するが、我が範とすべきお手本として此処に引用させて頂いた次第。


  

        今日の歌           

 

                 アキレスの腱

 

 

         *雨音の打つトレモロの心地よきままうたた寝の夢に身沈ます

 

          *駆けてゆく影あり追へど捕まらぬ速さに消えぬ夢はかく疾し

 

          *をさな児の眸をふと思ふ夢のなかに艶然と佇つひとの面影

                 (眸=め)

          *生死をすら定め得ぬ身の不甲斐なさ春 暁の夢に縋りて

            (生死=しょうじ)

          *アキレスの弱きポイント痛めつつ数歩を辿りたどりつつゆく

今日の歌  春告げ鳥    二月二十三日(木)

  二十日の月曜、両くるぶしの異変発生から三日目、整形医師の診断を受け、

 アキレス腱の腱鞘炎と、ふくらはぎの腓腸筋膜の急性炎症だろうとのこと。安

  静と杖の使用を命ぜられました。

   歩行が出来ないくらいの疼痛が堪りません。椅子に座っていればなんともな

  いのですが、お茶沸かしにキッチンへ行くのも一苦労。トイレ、風呂も大変な状

  態。タクシーの乗り降りもいちいち運転手のお世話でなんとかしてます。

   あちこちの約束もどうしても破らなければならない辛さ、筋肉や腱の老化があ

   るから、すぐ完治は期待出来ないとの御託宣。こうして身心老いて行き、そのう

     ち車椅子生活になるかもしれないと思うと、ただでさえ暗い未来が、益々辛いも

     のになります。

     なんとか歌作に生甲斐を見つけて頑張っていきます。どうかよろしくご声援下さい。

 

 

       今日の歌

 

            春告げ鳥

 

     *名も知らぬ鳥の媾合ひわが庭に春を告ぐるかかしましき声

 

     *かのひとは人の花なりこのわれは影すらうすき老木にして

 

     *旅がらす鋭きまなこ投げつけしまま翔び立ちぬ春の夕暮れ

 

     *野良犬の悄然と去る夕暮れに音も無く降る あめの残酷

 

     *妻を呼ぶ声しきりなり春の夜の猫の恋すら羨もしきものを

今日の歌   身辺雑事   二月二十二日(水)

                今日の歌

 

               身辺雑事

 

 

        *晩年をおだやかに遺るひとは佳し悶えくるしむもの多き世に 

 

         *さはあれど腎失ひてのこる世のいかばかりなり 沈丁花咲く

 

         *つひの日をいかに過ごさむおそらくは小春日和の朝のまだきに

 

         *年古りてなほ逝ききれぬ苛立ちに寝ねやらず伏す老ひの薄床

 

         *ものごとにかならず終のあることをうべなへぬ娘の孫の溌剌

                                     (娘=こ)

今日の歌  春雨や佳し     二月二十一日(火)

          今日の歌

 

                    春雨や佳し

 

 

          *際立ちて顕つ紫雲英の香に偲ぶかつて若かりし日のあのひと

                 (紫雲英=レンゲソウ)

      

          *あさき春夕暮れに映ゆくも幾重 思へばとおし過去 七十年

 

          *さはあれどきみ恋ふことにわがひと世心宥して発たむ黄泉路へ

 

          *「さんがつ」にこころ踊りし齢過ぎ思ふあしたのいのちいかにと

 

          *尿閉にいためつけられ残り世を如何に生くべき 春さめや佳し

今日の歌   遠い日のきみに   二月二十日(月)

        今日の歌

   

               遠い日のきみに

 

 

        *やは肌を夢見つつ居り小雨降るなか凛と咲く薔薇ながめつつ

 

         *妄想のかげを追ふ身の恥しさにほむら立つ背をあめに晒しつ

                     (恥しさ=やさしさ)

 

         *ひとり身の淋しさむしろたのしみつ宴のごとくきみを恋ふ夜

 

         *熱出でて呆たるままにただきみを篝火花にかさね幻るゆめ 

                              (篝火花=シクラメン)

 

         *思へらくきみ愛しみしかの日々を宥せ 春夜の月燦とあり

                 (愛しみ=いとしみ)         

今日の歌    春 風 誦        二月十九日(日)

         今日の歌

 

                  春 風 誦

     

         *とどき得ぬあかるさの在り春がすむかなた紺青いろの抒情詩

 

          *春いづこ風ぬるむまま面挙げてゆくひとびとの影のさみしさ

 

          *明日は春今日いまだ冬端境ひに戸惑ひつつも梅は香を顕つ

 

          *降り出でて庭濡らし居る一瞬の湿りたる風 しかとはるさめ

 

          *をのが娘に三人子ありてこの春はひとしなみ進学せりと嗚呼

(娘=こ) (三人子=みたりご)

今日の歌  残んの時刻  二月十八日(土)

今日の歌

 

               残んの時刻

 

      *一拍を欠く束の間にそよかぜは奪ひ去るわが貴重なる時刻

                                    (時刻=とき)

  

      *日に二たび夜に三たびどうしようもなきいら立ちに心拍數ふ

 

      *心拍のみだるるさまへ氣を遣りて残んの時刻をまたも失ふ

  (時刻=とき)

    

      *ああ今日もなんとか休みなく動く幸あれ心の臓よわが身の

 

      *心ゆくまで眠りたし安らはぬ動悸息切れ消えぬ真夜ゆゑ

今日の歌    午後の倦怠   二月十七日〔金)

             今日の歌

 

                午後の倦怠

 

       *はるかぜのまねきに倚りて裏切られ居る午後の庭未だ花無し

 

       *伝承と為れぬ此の身のその死後は只常闇に溶け消ゆるのみ

 

       *まさに死すべき日や近し庭の辺の野花この年つひに咲かざり

 

       *春あさき午後の倦怠るさわがものと呼吸深くす・・確と生き居り

                (倦怠るさ=けだるさ)

       *死はつねに遠き憧憬 近き畏怖まかなしは今日も不整脈吾の

                (憧憬=あこがれ)

今日の歌   累卵の一個     二月十六日(木)

     今日の歌

 

 

              累卵の一個

 

 

     *わが靄のごとき脳漿に影ひとつ茫と泛びぬまぼろしか はた

 

     *ちちふさの乏しきを言ひ眸を伏せぬ過の日過の人確と愛しき

 

     *わが無惨 見るはいとはし春あさくしだる柳のそぞろ青む日

 

     *一脚の椅子壊れたり春の夜の重き空気に耐へずして いま

 

     *累卵の一個なりしをいまさらに知らしむなかれ春の黄ぶだう